パリパリ派

日々のあれこれ

ミステリアスメインディッシュ

 

事はこの間友人に「理由あって冬に出る」という小説を紹介したことに端を発する。

 この小説は創元推理文庫の名に違わず、学園ものの日常の謎ミステリーであり、とある市立高校で起こるちょっとした謎を、主人公の葉山くんと、探偵役の伊神さんが解いていくものだ。殺人事件は起こらず、ミステリーに馴染んでいない人でも容易に読めるような学園ものとしての趣きが強く、あまり本を読まない友人に本を勧める時には割とよく選ぶ一冊だ。

「小説って身構えてたけど読みやすくてよかった。他も読んでみたい」(17歳・男性)

「ラストまで一気に読めた。殺伐としたのを想定してたから意外だったけど面白かった」(22歳・男性)

など、私が本を勧めた人からも喜びの声が上がっている。

 

さて、この本を例によって友人に勧めたところ、その友人から帰ってきた反応は少し想定と違っていた。

これ、ミステリーじゃなくて良くない?

というものである。 

 ちょっと虚をつかれたが、これに関して少し納得してしまった部分があったのだ。

 

誤解のなきように言っておくが、「理由あって冬に出る」はれっきとしたミステリーだ。トリックの仕掛けられた校内の見取り図が載っていたり、動機と犯人が二重になっていたりする、古式ゆかしきミステリーの作法に結構則っているし、その謎自体も読んでいて楽しいものだ。

 

それでもなお、ミステリー的な部分を否定する言葉に対して頷いてしまったのは、この本がミステリーじゃないからではない。

何かミステリーのオススメを教えて

と言われた時にこの本を勧めてしまったからである。

 

つまるところ、普通「ミステリーを読みたい」といった時、その人が想定するメインディッシュは殺人事件なんじゃないかという話だ。

 

実際のところ、ミステリーというカテゴリは広く、殺人・日常の謎に始まり、怪奇現象の解決、泥棒、詐欺事件に電脳ものまで、ありとあらゆる要素とつなぎ合わされる。

これらの中で、一番メインディッシュに想像しやすいのはやはり殺人なのだと思う。

ここに動機の面だったり、舞台設定でSF、ファンタジー、青春などいろいろな味付けがなされていくものが多いのだ。

 

考えてもみよう、日本で一番有名なミステリーといえば、

そう、名探偵コナンだ。 

 漫画だが、ミステリーとして一番触れられる機会が多いのは間違いなくこれだろう。

そして、ここに関わる事件といえばやはり圧倒的に殺人なのだ。

たまに少年探偵団のほのぼのとした日常の謎が入ったり、ちょっとした青春の話が入ったりするものの、作品を代表する事件といえばほとんどが殺人事件である。

あまりの殺人事件の頻度に「死神はコナンなのでは」と言われるほどに殺人事件が起きまくるこの漫画だが、これはやはり殺人こそミステリーという考え方が大きいからではないだろうか。

 

そんな中、「お勧めのミステリーを教えて」に対して日常の謎を選んでしまったのは私の失策だろう。

 

言うなれば、

「ホラー映画教えて」と聞いてジュラシック・パークを勧めたり、

シューティングゲーム教えて」と聞いてモンスターハンターを勧めたりするようなものだ。

間違いなくその要素は含んでいるのだが、聞いた側は腑に落ちないのが正直なところだろう。

「ミステリー」の初手で日常の謎をチョイスするのはこういった行き違いを招くのだと感じたのだ。

 

特に小説など、嗜好による部分が大きいものについて人に話す時には、この辺りの齟齬をなくすように心がけたいと思った出来事だった。