パリパリ派

日々のあれこれ

コロシアイと推理講戯

先日発売された円居挽語り屋カタリの推理講戯 (講談社タイガ)を読んでいたところ、最近よく見られるタイプの推理ゲームという趣の強い作品だったので、ついでにお勧めをまとめておこうと思う。

 

どういうゲームかといえば、「ダンガンロンパ」に類するゲームで、「推理者がある程度のリスクを背負い、また正解を知っている第三者が採点者として存在する」というものだ。

ということでまずはダンガンロンパから思い出しておこう。

 

外界から隔離された空間に閉じ込められた高校生たちが、生き残りをかけたゲームに挑戦し、脱出を目指していくこのダンガンロンパシリーズで、毎度用いられているゲームの形態が「コロシアイ」である。

それも単なる殺し合いではなく、勝利条件が特別に設定されており、「誰かを殺し、かつ誰にも摘発されない」ことによってのみ脱出ができるというものだ。犯人は勝ち逃げできるわけではなく、規定された「裁判」の日まで、他の人々の捜査を欺き、裁判で「摘発」されないことが求められる。

摘発にもルールが定められており、犯人は裁判の議論を踏まえた参加者の多数決によって指定されることになっている。ここで真犯人の指定に成功すれば、真犯人はオシオキと称して処刑されるのだが、逆に誤った場合には犯人だけが脱出に成功できるというものだ。

 

一見すると最適解として「誰も誰かを殺さないで助けを待つ」という解がありそうなこのシナリオだが、そうはならずに毎回動機が生まれ、何か事件が起きていき、その過程で物語全体に通ずる大きな謎が解き明かされていくのがこのシリーズがうまく作られていると思う点だ。

捜査もシンプルで、タイトルに違わず議論の場面では「それは違うよ!」とカットインしていける論破の爽快感もあり楽しいのでぜひ1からプレイして欲しいゲームである。

 

 

1. インシテミル (米澤穂信)

 まずはこちら、ダンガンロンパの着想の元という噂も聞く「インシテミル

インシテミル (文春文庫)

インシテミル (文春文庫)

 

 この小説におけるゲームのルールはwikipedia:インシテミルに詳しいが、おおよそまとめると、登場人物たちはとある実験のモニターとして謎の建物に閉じ込めるのだが、その中では時給制の超高額な報酬が発生しており、しかも誰かを殺せば総額が2倍に、その犯人を指名すれば3倍に、しかしペナルティももちろんあって犯人が指摘されると報酬は激減してしかも収監されるというものだ。

 丹念に作られた「本格もの」らしいトリックが数多く仕込まれており、しかも古典的な名作を模した殺し方やギミックが出てきたりと、ファン向けの一冊となっているが、同時にあまりミステリーに触れたことのない人でも色々なトリックなどに触れることがてきて面白い、とっつきやすい作品だと思う。

 

ちなみに映画も藤原竜也主演のがあって、藤原竜也はまあいいんのだが、原作を読んでからだと余計な改変っぽいのがたくさんあって評価を劇的に落としてるので見るなら読む前をお勧めする映画となっている……

インシテミル 7日間のデス・ゲーム [DVD](右下のインディアンの存在感がすごい)

 

 

2. 名探偵の証明 密室館殺人事件 (市川哲也

 続いてはこちら。「名探偵の証明」シリーズ2作目。

名探偵の証明 密室館殺人事件

名探偵の証明 密室館殺人事件

 

ミステリー小説の利点として、シリーズものの続編でも、どこからでも読めるというのが多いというのが挙げられる(綾辻行人の「館」とか)と思うのだが、このシリーズは多少前作を把握しておいたほうが楽しめるかもしれない。

と、いうのも世界観に特徴があり、特殊な人間として「名探偵」というのが一般的に認められているものであり、それを念頭に置いていないとやや戸惑うかもしれないからだ。

 

さて、中身に入るとダンガンロンパインシテミルでは、舞台自体を作り上げた「黒幕」を考えるのも一つの大きな謎になっているが、この作品は少し違う。

この作品では、参加者たちがミステリー作家の拝島に集められ、彼女の作った ”ミステリー” の登場人物として殺人が行われるのだ。そして、例によって解決はきちんと行われる必要があり、その正誤は全て仕掛け人である拝島によって判定される。

主な違いは、多数決で「犯人を決めること」が目的なダンガンロンパなどでは、犯人の指名にさえ成功すればその殺害方法やトリックは誤っていても良かったのだが、「密室館」では犯人に辿り着く論理が必要となることにあるだろう。

これにより、「名探偵」という概念がより活きる形に進化していると感じられた。

また状況設定全体に対する謎やどんでん返しも十分に準備されており面白い。

(残念ながら1作目*1はつい先日文庫化されたものの、今作はまだ文庫化されていない)

 

 

3. 語り屋カタリの推理講戯 (円居挽)

 さて最後に持ってきたのは、最初に言及したこの小説だ。

語り屋カタリの推理講戯 (講談社タイガ)

語り屋カタリの推理講戯 (講談社タイガ)

 

先に「密室館」は少し趣が違うと言ったが、この小説はそれよりもさらに違う。

この物語では、参加者たちは初めからゲームに参加しており、しかもそれは殺人ゲームというよりは謎解きゲームに近い。

参加者たちは数人ずつある空間(館だったり庭園だったり)に閉じ込められる。その空間には解くべき「謎」が存在するか、あるいは作られ、それを解いていく様子をエンターテインメントとして視聴者に放送しているというものだ。

この「謎」にはミステリーの流儀に乗っ取った「5W1H*2の属性が設定されており、何度もゲームに参加してその6種の謎を解くことがこのゲーム全体の目的となっている。

面白いのは、参加前には発生する謎の種類はわからないので「謎は解けたがもう How は取ってるからこのゲームは戦わない」などの行動をするものが現れることだ。それにより、参加者たちの行動に幅が出ており、面白い構造になっている。

 

このゲームに参加した少女「ノゾム」が各ゲームで度々「カタリ」と名乗る謎の男に出会う。彼はもうクリア間近なのになぜか謎を解こうとせず、謎について講義をしてノゾムを手助けしてくれるのだ。自らのクリアを目指して謎を解きながら、探偵として成長していくノゾムとともに謎の人物カタリを眺めるのがとても楽しい作品だった。

これだけではただのハートフルストーリーのようだが、運営側の思惑や、各自がゲームに挑む理由など、多角的に面白さが演出されており、読んでいて飽きないしラストもそう陳腐に終わらないもので面白かったと思う。

 

また、これだけ聞くとゲームの要素が全面に押し出されており「カイジかよ」という印象かもしれない。しかし小説内で生じる謎の多くは殺人であり、しかも各ゲームに参加する人数は数人で、一定の空間に閉じ込められている為、各々の問題はある種のクローズドサークルにおける殺人事件的になっていて、先に紹介した作品たちが思い出されたのだ。

 

 

 

なんとなく思い出されたのは以上3つ。

是非、どれか一つでも気になったら読んでみて欲しい。

 (この手のは沢山あるので有名なところを見逃してそう。そのうち足したりできるといいなと思う)

 

 

 

*1:名探偵の証明 (創元推理文庫)

*2:When, What, Where, Why, Who & How done it.